
「AIが作った画像って、著作権は誰のもの?」
「うちが生成した画像なんだから、当然うちの資産だよね?」
生成AIが制作の現場に入り込んだいま、こうした認識のズレが新しいトラブルの火種になっています。
結論から言うと、「AIで作った=著作権フリー」でも「AIで作った=自社の資産」でもありません。
この記事では、AI生成画像をビジネスで使うときに押さえておきたい著作権の基本と、現場で今日から実践できるリスク対策を整理します。
著作権法が保護する「著作物」は、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています(著作権法第2条1項1号)。ここでいう「思想又は感情」は人間のものを指します。
また、著作権法上の「著作者」は著作物を創作する者と定義されており、AIは法的な人格を持たないため、AI自身が著作者になることはありません。
そのため、AIが自律的に生成した画像は、原則として著作物にあたらないと考えられています。つまり、著作権が誰かに帰属するのではなく、そもそも権利が発生していない状態です。
「著作権フリー」とは違います。フリー素材は権利者が使用を許諾しているだけで権利自体は存在しますが、AI生成物の場合は保護されるべき権利が最初から生まれていない、という整理です。
一方で、人間がAIを創作の道具として使いこなした場合は話が変わります。文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月)では、AI生成物の著作物性は個別具体的な事例に応じて判断され、単なる労力にとどまらず創作的寄与といえるものがどの程度積み重なっているかを総合的に考慮するとされています。
その判断要素として挙げられているのが次の3つです。
| 判断要素 | 押さえるべきポイント |
|---|---|
| ① 指示・入力(プロンプト等)の分量・内容 | 創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示は、創作的寄与が認められる可能性を高める。ただし長大な指示でも、創作的表現に至らないアイデアを示すにとどまるものは判断に影響しない |
| ② 生成の試行回数 | 回数の多さ自体は判断に影響しない。生成物を確認して指示・入力を修正しつつ試行を繰り返す場合には、著作物性が認められることも考えられる |
| ③ 複数の生成物からの選択 | 単なる選択行為自体は判断に影響しない |
ここでよく誤解されるのが「1,000枚生成して1枚選んだから創作的寄与がある」という理解です。これは労力であって創作ではありません。 評価されるのは「出てきたものを見て、どこをどう変えたいと判断し、指示をどう修正したか」という中身のほうです。
なお、これらはあくまで文化庁が示した考え方であり、それ自体に法的拘束力があるものではありません。最終的には個別の事案ごとに裁判所が判断することになります。
バナーやWebサイトの制作では、AI生成画像はあくまで素材であり、最終成果物そのものではありません。
構図の設計、コピーの配置、色の調整、タイポグラフィの組み方――これらは人間のデザイナーが行っています。
この点について文化庁の考え方は、人間による作品の創作に際してその一部分にAI生成物を用いた場合、著作物性が問題になるのはAI生成物を用いた一部分についてであり、仮にその部分の著作物性が否定されたとしても、人間が創作した他の部分まで著作物性が否定されるわけではない、と整理しています。また、人間がAI生成物に創作的表現といえる加筆・修正を加えた部分については、通常、著作物性が認められるとしています。
守れないのは「AI生成画像そのもの」であって、「それを使ってデザインした成果物全体」ではない。この線引きを持っておくと、クライアントへの説明が格段にしやすくなります。
【事例】 制作会社が納品したバナーのAI画像部分を、発注者が別案件の素材として再利用した。
【解説】 AI生成部分に著作権がないとしても、成果物全体のデザインには著作権が及ぶ可能性があります。 また、そもそも契約で定めた使用範囲(Web限定など)を超える利用は、著作権とは別に契約違反の問題になります。「AIだから自由」という理屈は成り立ちません。
【事例】 AI生成のキービジュアルをブランドの顔として展開したところ、競合が酷似したビジュアルを使い始めた。
【解説】 著作権が発生していない以上、他社が似た画像を使っても差止めを求めることが難しいのが現実です。ブランドの核になるシンボルやキービジュアルをAI生成物単体に依存させるのは、法律論を抜きにしても避けるべき判断といえます。
【事例】 有名イラストレーターの名前をプロンプトに入れて生成した画像を広告に使用した。
【解説】 著作権侵害の成立には「類似性」と「依拠性」の両方が必要です。
前提として、作風や画風といったアイデアが共通するだけでは著作権侵害にはなりません。 ただし、作風が似ているだけにとどまらず、表現のレベルで既存作品の創作的表現を直接感じ取れる場合は、侵害にあたり得ます。
そのうえで注意したいのが、依拠性を、プロンプトの書き方で自ら作り込んでしまうパターンです。文化庁の考え方では、既存の著作物そのものを入力する image-to-image のような場合や、既存の著作物の題号などの特定の固有名詞を入力する場合が、依拠性が認められる例として挙げられています。
さらに、利用者が既存の著作物を知らなかったとしても、そのAIの学習段階で当該著作物が学習されていた場合には、通常、依拠性が推認されるとされています。「知らなかった」だけでは守りにならない、という点は押さえておくべきです。
著作権ばかりに目が向きがちですが、実務で足をすくわれるのは次の3つです。
プロンプトに固有名詞を入れていなくても、生成物が既存の作品と似てしまうことはあります。世に出す前に人間の目で確認する工程を必ず挟んでください。画像の逆検索(Google画像検索、TinEye など)を通すだけでも、明らかな事故はかなり防げます。
なお、著作権侵害では、損害賠償請求には故意または過失が必要ですが、差止請求は故意・過失がなくても認められます。 「知らなかった」で掲載中止を免れるわけではない、という点は理解しておきましょう。
著作権と決定的に違うのは、商標権の侵害には「依拠性」が要件になっていないという点です。他人の登録商標に似たマークを、その商標の指定商品・役務と同一・類似の分野で、商標として(出所を示す形で)使ってしまえば、偶然の一致であっても侵害が問題になり得ます。
背景の装飾として写り込んだ図形がただちに商標権侵害になるわけではありませんが、ロゴ、アイコン、シンボルマークをAIで作る案件では話が別です。J-PlatPat での商標調査を必須工程にしてください。
法律とは別の軸で、各AIサービスの規約が商用利用を制限している場合があります。
「ロイヤリティフリー素材」と同じで、規約の範囲内でしか使えないのが原則です。使用するツールの規約は、少なくとも年1回は見直す運用にしておきましょう。
なお、学習データがライセンス済みであることを明示し、知財補償を提供しているサービスを選ぶのは、有効なリスク低減策のひとつです。
制作前・制作中・納品前の3段階で、次の項目を運用に落とし込んでください。
最後の項目は現場で最も見落とされます。参考画像をそのままAIに入れるのではなく、構図・色調・被写体の言葉に翻訳するワンクッションを必ず入れてください。
使用ツール名・モデル名・プロンプト全文・チェック実施記録を案件フォルダに保存します。これは二重に効きます。 万一争いになったときに、その作品を学習していないことなど依拠性を否定する材料を主張しやすくなり、同時に「創作的寄与があった」ことの裏づけにもなるからです。
AI生成素材を含む成果物を納品する場合、契約書や見積書に一文添えておくと安全です。
本成果物には生成AIを用いて作成した素材を含みます。当該素材単体については著作権が発生しない場合があり、その範囲で第三者が同種の素材を使用する可能性があることを、あらかじめご了承ください。
「著作権をすべて譲渡する」という一般的な条項を結んでいる場合、譲渡すべき権利がそもそも存在しないパーツが混ざることになります。事前に説明しておくかどうかで、後から「独占できるとは聞いていない」と言われたときの立場が大きく変わります。
あわせて、AI活用の可否と開示範囲を制作前に確認しておくことも重要です。法的には問題がなくても、ブランドのポジションによっては「AIを使ったこと自体」が論点になる場合があるためです。
生成AIは制作のスピードを大きく変えてくれるツールです。だからこそ、権利まわりのルールを先に整えておくことが、安心して使い倒すための近道になります。個別の判断に迷うケースは、早い段階で法務・知財の専門家に相談することをおすすめします。
引用・参考文献