
「デザイン費を払ったのだから、著作権も自分にあるはずだ」
「納品後のデータを勝手に改変されてしまった」
デザイン制作の現場において、こうした認識のズレから生まれるトラブルは後を絶ちません。
実は、「納品=著作権の譲渡」ではありません。
本記事では、Webデザインやロゴ、チラシ制作などで必ず押さえておくべき「著作権の基礎」と、トラブルを未然に防ぐための具体的な対策について解説します。

まず大前提として、日本の著作権法では「作った瞬間に、作った人(制作者)に権利が発生する」と定められています。これを無方式主義といいます。
契約書で特別な取り決めをしない限り、デザインの著作権はデザイナー(制作者・制作会社)に帰属します。
発注者が料金を支払って得られるのは、原則として「その成果物を利用する権利(許諾)」や「所有権(チラシなどの現物)」のみです。そのため、発注者が無断でデザインを二次利用したり、勝手に色や形を変えたりすることは、著作権侵害になる可能性があります。
ただし、会社の業務として従業員がデザインを作成した場合は、その著作権は「会社(法人)」に帰属します(著作権法第15条)。これはフリーランスへの外注には適用されず、あくまで社内雇用関係の場合です。

ここでは、現場で頻発するトラブル事例と、法的観点からの正解を見ていきましょう。
【事例】 Webサイト用に作ったバナーを、発注者が無断でチラシにも流用した。
【解説】 これは「複製権」や「公衆送信権」の侵害になる可能性があります。当初の契約範囲(Webのみ使用など)を超えて利用する場合は、追加の許諾や料金が必要になるのが一般的です。
【事例】 ロゴデザインの色が気に入らなくなったので、自分たちで別の色に変更した。
【解説】 これは「著作者人格権(同一性保持権)」の侵害にあたります。
ここで重要なのが、著作権には2つの種類があるという点です。
| 権利の種類 | 内容 | 譲渡の可否 |
| 著作権(財産権) | 複製したり、公開したりして利益を得る権利 | 譲渡できる |
| 著作者人格権 | 制作者の「心」を守る権利(公表権・氏名表示権・同一性保持権) | 譲渡できない |
たとえ契約で「著作権(財産権)を譲渡する」としていても、「著作者人格権」はクリエイターに残り続けます。そのため、改変(修正)を行いたい場合は、あらかじめ「著作者人格権を行使しない」という特約を結ぶ必要があります。
デザイン制作では、写真素材やフォントを使用することが多々ありますが、ここにも注意が必要です。
よくある勘違いですが、ストックフォトサイトなどの「ロイヤリティフリー」とは、「利用規約の範囲内であれば、追加料金なしで何度でも使える」という意味であり、著作権が放棄されているわけではありません。
商用利用の可否: 個人利用はOKでも商用はNGな場合があります。
加工の制限: トリミングはOKだが、過度な変形はNGなど。
クレジット表記: 表記が必須な素材もあります。
そもそも何が著作権で守られるのか、法律の定義を確認しておきましょう。
「著作物」とは、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
(引用元:著作権法第2条1項1号|e-Gov法令検索)
単なるデータやありふれた幾何学模様などは著作物に当たらない場合もありますが、デザイン制作においては「創作的な表現」が含まれることがほとんどです。

以下の項目について、制作開始前に合意形成を行いましょう。
著作権の帰属: 制作者に残すか、発注者に譲渡するか。
利用範囲: Webのみか、紙媒体も含むか。期間制限はあるか。
改変の可否: 納品後に発注者側で修正を加えても良いか(著作者人格権の不行使特約)。
クレジット表記: 制作者の名前を入れる必要があるか。
元データの引き渡し: AIデータ(Illustrator形式)などを渡すかどうか(※一般的に元データ譲渡は別途費用がかかります)。
「ロゴマーク」や「会社のキャラクター」など、将来的に多方面で展開し、商標登録も検討するような成果物の場合は、「著作権譲渡」を受ける契約にするのが一般的です。その分、制作費に譲渡費用が上乗せされることを理解しておきましょう。
デザイン制作における著作権は、曖昧にしておくと後々大きな損害賠償問題や炎上リスクに発展しかねません。
原則: 著作権は「作った人(制作者)」にある。
注意: お金を払っても、勝手に改変・使い回しはできない。
対策: 「誰が権利を持つか」「どこまでやっていいか」を事前に書面で握る。
発注者と制作者が互いの権利を尊重し合うことが、質の高いクリエイティブを生み出す第一歩です。不安な場合は、契約書のひな形を見直すか、専門家への相談をおすすめします。